山崎豊子全集に掲載の原作を読んでから2年。楽しみにしていた映画の一つである。
あの世界感を映像化できるのか?ということと、渡辺謙の熱い演技を観たかった。封切りすぐに観たかったのだが、あまり混んでいる状態が好きではないので平日のお客さんが少なそうな時間帯を選んで鑑賞。
話しの流れは時系列になっている小説とは異なっているが、それこそが映画!という感じ。ただ原作を読んでいない人には付いていくのが大変だったかもしれない。
またインターミッションまでは一つのシーンが非常に短く、どんどん話しが進んでいく。これまた原作未読者には感情移入がしにくいと感じた。ここで主人公が正義感と同胞思いの塊であることがきちんと描かれないと彼の不遇の人生にも共感が得られにくい。また事故の後の遺族への対応も映画の中ではあまり丁寧に描かれていなかったのも主人公の真骨頂の部分であるだけに残念である。
本来なら2本や3本シリーズにしても良い分量の話しを3時間という時間制限の中に全てを盛り込まなければならなかった監督・脚本家の苦労は充分に感じることができたが、やはりダイジェスト的な感じが否めない。
キャストは実力派ばかり、話しの内容もしっかりしているだけにもっと時間があれば・・・と思わせる作品だった。
また、公開がJALに公的資金を投入するかどうかというこの時期にぶつかってしまったのは話題づくりにはぴったりだったが、主人公への感情移入という点ではマイナスに働いてしまった。主人公は不遇を極めるとはいえ、東京で一軒家に住み、いつもダンディな服装、アフリカではハンティングにいそしむ等、現在の貧困・格差社会の中では拠って立つ社会状況が異なる。映画の中で職員の処遇を叫べば叫ぶほど、テレビで話題となっている高すぎるレガシーコストの話しがオーバーラップしてしまう。その意味ではタイミングが悪かったといえる。
なお、原作を読んでいるときには違和感を感じた登場人物が実は不毛地帯の登場人物と同じ人であったことが映画を見てわかった。それぞれの作品では名前は違っているが歴史的な役割が同じであることから気が付いた。そのほかにもいくつか遊び?と思われるようなところがありこれも楽しむことができた。
できることならば原作を読んでから観るとより楽しめる、でもあのボリュームを簡単には読めないと思われるので、映画を観てから原作でさらに深めるという方法でも良いかもしれない。
日本映画を代表する重厚でしっかりとした作品である。