 虐待防止法施行から10年 〜 何が足りないか、何をすればよいか
 欧米では児童虐待は「減らせる」という論調に変化してきている
 日本で虐待件数が増えている要因 〜 取り組みが進んだ、定義が拡
大した、依然として育児がしにくい社会状況など
 今後まだ増える可能性は大 〜 欧米は定義の拡大している → 欧米
では定義され件数も多い「性的虐待」、「心理的ネグレクト」は日本ではまだカ
バーされていない
 虐待は在宅継続が8割 〜 家庭におけるリスクはそのまま継続して
いる。どう支援するかが確立されていない。
 虐待の影響は5〜10年は継続。在宅指導となっているケースの累積
数がその地域での支援対象となる。→ 地域全体を継続的にみていく必要あり
 イギリスでは法に基づき家族分離した児童については国の威信をかけ
て養育することが責務とされている。日本ではそこまで到達できていない。(施設
の最低基準等)
 保護が必要な児童 〜 受け皿がなく分離が必要なのにできない児童
が増加
 社会的養護施策は戦争孤児の支援から始まる → 生活保障のみでよ
かった。現在は虐待を受けた児童に対して心の治療施設になる必要あり
 国内の死亡事例〜児童相談所よりも保健・医療機関の関わりが中心。
→ 児相につながる前の取り組みが虐待件数を減らす鍵に
 介入を増やすだけでは件数は減らせない。周産期の育児支援がカギ
 国内では支援後に子どもがどのように育ったかの分析データが無い
 (1990年大阪府乳幼児期に始まった虐待の5年以上の経過)
 援助機関は年齢で変遷し、在宅は中断しやすい
 発見後3年後も成長発達問題が残る
 8歳以上は情緒行動問題が全員にある
 施設入所した35人のうち退所は14%のみ
 短期改善例は親・生活・子要因が軽い
2「児童虐待」の基本理解に再度もどろう
 虐待対応 〜 一番難しい。一番専門性必要。知っているだけで効果
的支援可能。指導だけでは足りない、うまくいくはずがない。うまくいかないこと
を前提で支援すべき。相手を知ること、どう理解したか
 Mヘルファー他「虐待された子ども」明石書店 海外では関係者のバイ
ブル本
 子ども中心で常に考える → 子どもの育ちに問題がなければ介入不要
 虐待発生時にはいつも4つの条件あり〜そのうち一つでもなくせれば
改善できる
 発生条件 → 子ども時代に愛されていない親、生活ストレス、心理社
会的孤立、親の意に添わぬ子
 支援をする時は 社会的孤立→生活ストレス軽減→子の症状の軽減→親の
育児改善や治療 の順に行う。いきなり育児改善を目指しても効果なし
 育て方の改善ではない 〜 社会的孤立を解くことから始める〜親が
困っていることの相談相手になれるように対応すべき。欧米で虐待件数を減らせて
いるのは社会的孤立を減らす取り組みを積極的に行ったから
 援助は「虐待の治療法」として認識
 家族のプロフィール(一人親、離婚歴、精神疾患など) 〜 アセス
に使うだけでなく、それぞれ丁寧に支援していくことで減らすことができる。
 地域の支援を多機関で長期間継続させる 〜 親との関係を破綻させ
ないことが必要。
 親に対しては「通告は法的義務であるため実施せざるを得ない」「た
だし援助は継続する」ことを約束する。
 国、社会の虐待取り組みの発展過程(クルーグマン)
 虐待の存在を無視
 虐待(身体的→ネグレクト)に気付く
 かわいそうな子をひどい親から強制分離
 親の治療への挑戦 (←日本は現在ここの段階)
 性的虐待に気付く
 予防に取り組み始める
 心理的虐待に取り組む
 介入の考え方 → アメリカは法介入を基本。現在行き詰まりが出てき
ている。ヨーロッパでは支援と法介入のバランスをとっている。日本はどちらを目
指すべきか。
 英国政府ガイドライン 子ども保護のためのワーキング・トゥギャザー
 介入は子どもが傷ついている場合のみ
 子どもが第一
 親とのパートナーシップ 〜 カンファレンスに親が参加、援助を検
討
 予防と保護を一体としてシステム化する。
 「ハイリスク」というレッテル貼りをやめる 〜 社会が当然支援す
る必要のある子ども、家族ととらえる
 親に「あるべき」論を押し付けない
 カンファレンスに親を含めて実施する。
 現状は問題点についてのカンファレンスのみとなっている。
 必要なのは「支援の内容」をカンファレンスすること
 出来ていること、できていないこと、希望は何か
 「問題点のアセス」ではなく「支援のアセス」に変えていく必要あり
3 死亡は減らせる!
 虐待防止の取り組み目標は「死なせない」「世代間連鎖させない」こ
と
 大阪府PHNのハイリスク支援
 死亡率は1/4に減少 変わったのは施設・保育所・他機関連携
 虐待は支援なく回復することはない
 安全確認、見守りは支援ではない
 虐待のストーリーを読み取ることができれば死に至るスパイラルを防
ぐことができる
 進行の仕方を予測できる、進行に対して介入できる
4 世代間連鎖は絶てる!
 虐待で受けたダメージは自然に治らない。長期の支援が必要 〜 3
年から5年で子どもにも変化出てくる。少なくともその間は支援を継続する必要あ
り。→ 在宅指導が8割ということは支援が必要な対象児童が地域に累計でそれだけ
存在するということ
 虐待を受けることで知的発達が遅れる 〜 つくられた知的障害
 特別支援学級の中の知的障害がある子、作られた状態の子 〜 本人
は自覚あり。ある作業指示が出されたときに段取りを自分で組み立てられるのはつ
くられた状態の子
 虐待を受けたダメージで次々と症状が出てくる。愛着障害、PTSD、乖
離障害 〜 心の底にあるものを治さないといけない
 虐待を受けたダメージの内容 〜 身体面の成長障害は15歳位までに
は改善。発達遅滞はきちんと対応しないとずっと継続する。精神症状は年齢ととも
に大きく出てくる。
 PTSDは話すことで回復に向かう。話せる関係性、信頼性をつくる 〜
必ずしも専門家である必要はない
 大人になった時に問題がなくなっている児童の共通点
 子どもに社会性・知能・学習能力がある → 個別の学業支援がカギ
 家族(母親・片方の親)に支持的な心の絆がある → 同居である必要
はない
 家族以外の人(教師、友人)からの大きなサポートがある → 予後の
情緒行動問題は虐待内容よりも家族機能と相関する。
 長期予後の改善は大人に守られての自尊心・信頼回復がカギ。様々な
症状に個別に対応するよりも、自尊心や基本的信頼感の回復を図ることで症状全体
の改善につながる。
5 発生予防は可能!
 発生予防
 家族への頻回な支援。
 親の「子ども」についての知識を増やす。
 私的・公的ネットワークの構築。
 ただ「愛しなさい」と伝えるだけではダメ。具体的な知識やスキルを
伝える。
 虐待親に共通するのは B.スティール
 子ども時代に愛情を受けていない親は愛情ある行動ができず良い愛着
につながらない
 このような親は子どもへの世話をする時に子どもが従順・性格・適切
に反応することを期待している。〜 親のニードを前提としている
 共感性なく育てられると基本的信頼感・自尊心を持てない
 非器質的体重増加不良は共感性欠如により起きる
 われわれが新たに獲得しなければならない支援スキル
 10代の親への子育て支援
 再婚家庭、ステップファミリーへの支援
 親に精神疾患がある子どもへの支援
 精神疾患のある親が育てる子どもへの支援 〜 他の大人との接触を
保障する→保育所がとても重要
 10代の子育て支援をサポートできないとその親が20代になって次の子
と産んでも問題を抱えたままになる 〜 親自身の発達がまだ途上にある
 10代の母親の乳幼児発達についての認識にはずれがある
 子どもができると思っている年齢が実際の標準月齢よりも早い傾向あ
り → 子どもについての認識に誤りがある。よって子どもの行動の意味を勘違いし
ている。
 精神疾患のある親の子ども支援 〜 イギリスでは医療機関の治療基
準で「仕事、生活の安定」だけでなく「子育てがうまくいくようにする」ことが明
確となっている。
6 これからの地域ネットワークは?
 要対協は要保護児童への対応というよりも在宅支援するネットワーク
として位置づけるべき
 通常母子保健は福祉分野からの依頼によりお付き合いで虐待防止にか
かわっている傾向が強いが、道は市町村の母子保健が主体的にかかわるための取り
組みを実践しているところに敬意。
0 件のコメント:
コメントを投稿