子ども自身が貧困ではなく、子どものいる家庭が貧困に陥っているということだが、昔のように貧困家庭に育っても社会的に成功するチャンスがわれわれの親の世代程多くなく、むしろ貧困家庭に育つ→高等教育を受けるチャンスが激減→就職で不利に→自身が貧困層から抜け出すことができない、と貧困層が固定化してしまう傾向が強まりつつあるようだ。
だれもすき好んで貧困になりたいとは思わないはずだが、貧困層が増加することで本人が苦しむのみならず、貧困がさらなる悲劇や苦痛をもたらすこともあるだろう。もっと言えば社会が不安定になることにもつながるかもしれない。その意味では「本人の責任」といって放置することはできないのである。
家族関係の政府支出はアメリカよりも低く先進国中最低、離婚で母子家庭になったり、病気で職を失ったことで一気に貧困層に陥ってしまうほど日本のセーフティーネットは貧弱である。
特に、ショックだったのは、子どもの貧困率を家族給付や減税等による再配分の前後で比較したグラフ(p96)だ。OECD18カ国中、日本だけが再配分後の方が貧困率が増加している。社会保障制度や税制度によって日本の子どもの貧困率は悪化している!なんてことだ!国によって貧困が助長されているといえるのではないか。
なぜ日本だけこのようにお粗末な状態になっているかは、終身雇用と年功序列により会社が社会保障の役目を果たしていたため国が制度を考えなくても良かったからだというのが筆者の分析である。
今後少子高齢化がどんどん進む中、若い人の活力をより一層引き出せるような社会制度をつくっていかねばならないのに、今の日本はその逆を行っている。このままではジリ貧である。
こんな日本の現状を何とかすべく11の提言を著者は行っている。またイギリスの貧困研究学者ピーター・タウンゼントが提唱する「相対的剥奪による生活水準の測定」という手法を紹介していて、このような数値指標を用いて為政者や国民の心に訴えないと政府支出を増やすための原動力にならないという意見には納得である。
こんなすごい本の著者は左翼系の論者か政治家かと思っていたら、国立社会保障・人口問題研究所の室長であるというところがまたまた驚きであった。先日の経済財政諮問会議においてはこの本でも提言されている「給付付き所得減税」が民間議員の意見として出されており、与党野党ともに検討することと聞いている。役人でもムーブメントをおこすことが可能ということである。見習いたい。
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